9月のお便り

9月に入りました。朝晩はだいぶ過ごしやすく感じられるようになりましたが、いかがお過ごしでしょうか。少しずつ日暮れの時間が早くなり、秋の気配を感じます。

さて、食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋…。「〇〇の秋」には様々なものがありますが、今回は「芸術の秋」に焦点を当てて、当館の美術品の一部をご紹介したいと思います。


国立京都国際会館建設の際、全工事費の1%前後を美術家との協同の経費に充てることが条件に明記されていました。当館の建築が現代美術との統合にも貢献することが強く期待されていたのです。

建築家大谷幸夫氏は彫刻家である弟の大谷文男氏と相談し、若い美術家たちでA・A・A(Association des Artistes pour l’Architecture)というグループを作りました。「限られた機会の経験をできるだけ多くの美術家たちに共有して貰いたい」という想いから、大谷幸夫氏はグループでの議論を重視しました。そして、「厳しい建設スケジュールのもとでの美術家たちとの交流は、何時も不安や捉え難い部分を含みながらも、大変楽しく解放感を味わうことのできる貴重な時間であった。」と回想しており、さらに、「それは美術というものが人間にとってどのような意味を持つのか、その一端が示唆されているからだと思う。」と述べています。

国立京都国際会館の空間を彩る美術品たち

「現代の鼓動と、向き合う」

(写真左)ナショナル・ルート(写真右)大きな湖 (作者)菅井 汲(すがい くみ)

当館の正面エントランスから奥へ進むと、巨大なカンバスに描かれた赤と青のコントラストに目を奪われます。作者は、国際的に最も高く評価される日本人画家のひとり、菅井汲。写真左側の「ナショナル・ルート」は、菅井汲が作風を一変した1960年代に描かれた一連の作品で、明快な色やパターンの組み替えで構成されています。一瞬の逡巡も予断も許さない様々な力が殺到し、交錯する場としての現代の鼓動を伝えています。

「見る者を圧倒する、水墨の抽象世界」

当館2階にある会議場、RoomB-2の入口横には、来場者を迎える壁画「出遭」が飾られています。作者は、書の枠を超えた新たな水墨表現を追求し続けた芸術家、篠田桃紅。彼女の作品は平面だけに留まらず、同階にある会議場RoomA前には、立体作品「展開」も飾られています。壁一面にそびえるレリーフ壁は墨や銀泥などで採色され、ダイナミックな作風が訪れる人々の目を惹き付けます。

「来場者を導く『題名の無い美術品』」

館内を見渡すと、空間に溶け込んだ「題名の無い美術品」が至る所に設置されています。そのひとつが、1階ロビーのクローク横、壁一面に取り付けられた巨大な石造のレリーフ。湾曲した複数の石の上に象徴的な円形の石が積み上げられ、その姿は波間に浮かぶ太陽にも見えます。制作者は、前述のA・A・Aに在籍した2人の彫刻家、富樫一と土屋武。彼らの挑戦的な試みは、1階RoomD前ロビーの壁面に設置されたもうひとつのレリーフにも表れています。鋳物が石壁に埋め込まれた斬新な造りは柔らかさすら感じさせ、会議室へ来場者を導く「道しるべ」とも称され、人々の流れを見守っています。

今回ご紹介した作品はほんの一部ですが、当館を訪れた人々が会議の合間に館内の美術品、あるいはラウンジや日本庭園の空間そのものに安らぎや心地よい驚きを感じて下されば、建設時に目指した「建築と美術の協同・連携」の確かな成果であると言えるでしょう。

次回のweb magazineでは、京都国立近代美術館で開催中の「生誕100年 清水九兵衛/六兵衛」に関する記事をアップ予定です。この展覧会において、当館所蔵の七代目清水六兵衛の陶器が展示されました。